2019年 03月 17日
2019年3月17日 「B級ノワール論」 吉田広明
その後、紀伊國屋あたりから出た比較的高価なDVD(J・H・ルイスの「ビッグ・コンボ」とか)をポツリポツリと買っては大事に観てました。
「B級ノワール論」は、フィルム・ノワールへの関心以上に、自分の中でリチャード・フライシャーへの評価がどんどん高まっていた時期に読んだので、その意味では個人的にとても役に立った1冊です。
まあ、「役に立った」という書き方自体が微妙ですけど(笑)、ルイス、フライシャーに加えて、ノワール作家としてのアンソニー・マンを論じるという、ユニークで魅力的なラインナップながら、今一つ活き活きとは語ってくれませんね。
先においらがレヴューされてた「西部劇論」も同様、目次を眺めるだけでヨダレが出そうなメニューなのに、西部劇そのものの魅力が伝わって来ないんですよ。
自分がDVDで鑑賞しておいて、こんな事を書くのも何ですが(笑)、海外の文献とDVDに頼った評論の限界なのか、イメージも矮小化されている感じが・・。
失礼ついで書いてしまうと、この分厚い2冊を(それなりの金額をはたいて)手にしながら、私、著者の名前を覚えていませんでした。
労作は労作で、観る作品、集めるDVDの参考に役に立つことは間違いないんですが、文体の魅力や、抽象的ですが「愛」が感じられないですよね、確かに。
リチャード・フライシャーは元々好きな監督でしたが、恥ずかしながらジョゼフ・ルイスって最近まで知らなかったんですよ。
「ビッグ・コンボ」や「拳銃魔」、あとBOXを入手したんですが、名高い「ビッグ・コンボ」よりも「拳銃魔」に圧倒されました。(BOXはまだ未見)
これは確かに「俺たちに明日はない」より遥かに凄いです。
アンソニー・マンも良い監督ですが、やや当たり外れがあるような。
確かに労作なんですよ、特に「西部劇論」の方は。
「B級~」は題材的に「狙った」感があるのに対して、あちらは真っ正面から取り組んだ、正に力作・労作であることに疑いはありません。
戦後から60年代あたりまで、日本においても映画の代表的ジャンルでありながら、私の知る限り、西部劇についての(ファン的な視点で書かれたものは多くあっても)本格的な評論集(で、これほどの大冊)は、実は初めてではないかと思います。
マカロニも含めて、70年代あたりまでの西部劇を片っ端から録画して貯め込んでいる(!)私としては、本来、拍手すべきところですが、そうならなかったのが何とも残念。
「B級~」の帯を蓮實重彦が書いてるけど、もしかして教え子なのかな、だとしたら先生を見習って.もう少しハッタリをかませればイイのに(笑)。
「ビッグ・コンボ」はあくまでB級佳作ですが、「拳銃魔」は全てにワンランク上の、文字通りの「傑作」ですね。
いっその事、セカンドタイトルの「ガンクレイジー」(マカロニに同名の作品があるけど、笑)に改めて上映なり放映されれば、再発見されるような気もしますが。
だとしたら先生を見習って.もう少しハッタリをかませればイイのに(笑)。←あはは、その通りですねぇ。
要は生真面目すぎるのかな?
確かに、「西部劇論」の方は、本当に網羅的で「初めて」の評価に偽りはないですね。
「ガンクレイジー」というのは良いタイトルですけど、「拳銃魔」はさすがにねぇ。
片岡義男が「無人島に持っていく1本の映画」に「拳銃魔」を挙げていましたね。
映画館で観たときの鮮烈な印象が薄れるのが嫌で、持っているDVDを観ないそうです。
もちろん、脚本に関わったダルトン・トランボの力もありますが、やはりルイスのセンスとテクニック(とB級監督としての冒険心)が、高みに押し上げている大きな要因だと思います。
それにしてもトランボって、その硬骨な気質と、このようなサスペンスをキリッと引き締める職人性を併せ持ってるところは、何となく新藤兼人を思わせるなあ。
とまあ、久しぶりにノワール熱に火がついて、私も「ジョゼフ・H・ルイス傑作選」を買ってしまったんだけど、昨日届いたのを開いてみたら、解説は吉田広明氏が執筆していました(笑)。
片岡義男が無人島に持って行く1本に「拳銃魔」を?それで合点がいきました。
実は「珈琲が呼ぶ」というエッセイ集の中で、題名が直訳に近い洋画の例として、「拳銃魔」、「真夜中のカウボーイ」等々を挙げているんですが、あの「真夜中~」を差し置いて、こんなマイナー映画を一番手に持ってくるなんて何かヘンだな、とは思ってたんですよ(笑)。
ちなみに「珈琲が呼ぶ」、コーヒーはもちろん、マーロウやダーティーハリーから、つげ義春や辰巳ヨシヒロ、サラ・ヴォーンにペギー・リーとか、書き切れないくらい縦横に語って、とても愉しめる1冊でした。
読む前は、片岡義男あたりになると、思いつきで何でも本に出来ちゃうんだなと、少しだけ冷ややかな気分もあったんだけど、十分内容が伴っているし、もはや「匠」のワザですね、これは。
中でも、バーデン・パウエルの「知床旅情」というレコードの話や、黒澤の名を出さずに「素晴らしき日曜日」を語る1篇なんかは、片岡調が冴えまくってます。
写真やレイアウトも素敵で、それこそコーヒーを飲みながら、どうぞ(笑)。
ダルトン・トランボは本当に上手い職人芸のシナリオライターですよね。
確かに新藤兼人を思わせるかも。(映画の方がイマイチなのも・・・・・・)
「ルイス傑作選」、まだパッケージを破いていないので。
何と吉田広明氏の解説と、そういう落ちですか。
片岡義男のエッセイは素晴らしいですよね。
博覧強記なのにそれをひけらかさずさりげない文章で語る、大人の文章だと思います。
石上三登志とか久保田二郎とかの「永遠の少年」系のエッセイも大好物ですが、片岡義男を読むと「大人の男だなぁ」と感じます。(小説はどれも同工異曲ですけど)