2010年 05月 09日
2010年5月8日 「『もく星』号墜落」 黒木曜之助
「『もく星』号墜落」 黒木曜之助 (講談社)
力作であることは間違いない。
しかし全体的に見れば、やはり失敗作なんだろう。
一読、一番印象に残るのは、この作者、「現実」と「フィクション」の境界がめちゃくちゃファジーなんだな。
ラスト近くで登場する実在の某・有名人の扱い方も「おいおい、良いのかよ。こんな使い方???」というとんでもない物で、現在なら当然許されないだろうが、この作品執筆当時だって、ここまで大胆な使い方をする作家はいなかったように思う。
この辺りが、なかなかの筆力をもちながら、際物作家っぽいレッテルを貼られた所以か。
おいらは、島田荘司の「龍臥亭事件」を初めて読んだ時の違和感を思い出した。
あれは、黒木曜之助の別名義ルポ「津山 三十人殺し」のパクリ部分がほとんど根幹を占めており、「なぜ島田荘司のような(当時)一流作家が、あまり有名でもない黒木の作品を盗むようなことをするのか」、正直、島田の作品歴から抹殺したいような作品、と思っていたのだ、おいら。
しかし、今、黒木の諸作を読んでいると、島田は黒木の作品にインスピレーションを受けた結果、あの「龍臥亭事件」は黒木へのオマージュだったのかもしれない、と思うようになってきた。
あの作品の「現実」と「フィクション」の境界の曖昧さと、それがかもし出す揺らぎというか、違和感は、まさに黒木の持ち味であるからだ。
もう一度、「龍臥亭事件」を読み返してみたくなったおいらであった。